雨上がりの水たまりに映る、灰色の空と木々の枝

『十二支考』のプリニウスと典拠人物を数える——調査速報

青空文庫で公開されている『十二支考』11篇から、プリニウスへの引用・参照と本文に現れる典拠人物候補を抽出した調査速報。

『十二支考』のプリニウスと典拠人物を数える——調査速報

青空文庫で公開されている『十二支考』11篇から、プリニウスへの引用・参照と、本文に現れる典拠人物の候補を抽出した。今回は一覧の公開を優先し、詳しい分析は後日あらためてまとめる。

プリニウスはどこに現れるか

プリニウスへの引用・参照は、羊篇と犬篇を除く9篇に53件あった。篇別では馬篇が19件と最も多く、蛇篇8件、兎篇6件、竜篇と猪篇が各5件と続く。

53件のうち、プリニウスの記述内容を直接引用または要約したものが39件、出典だけを示したものが5件あった。そのほか、トマス・ブラウン、クヴィエー、グベルナチスなどを経由した紹介や、後世の批判を取り上げた箇所も含まれる。

扱われる主題は、動物の繁殖、行動、寿命、薬用、害獣、吉凶、伝説などに広がる。馬篇では妊娠期間や交尾、血縁の記憶、音楽に合わせて踊る軍馬までが引用されていた。

熊楠はプリニウスをどう読んだか

熊楠はプリニウスの記述を引用し、別の文献や観察と並べ、ときには批判の対象にもした。

虎篇では、プリニウスが記した虎の疾走説を紹介した後、トマス・ブラウンによる反論を置く。竜篇では、プリニウスの竜に翼の記述が見当たらないことを指摘する。猴篇では、『博物志』を「法螺も多い」と評しながら、古代ヨーロッパの知識を知る資料として位置づけ、李時珍の記載範囲と比較している。

馬篇には、後代の書物がプリニウスを出典として挙げた説を、熊楠が『博物志』全篇で探した例がある。該当箇所を見つけられなかった熊楠は、その不一致を本文に残した。引用、比較、評価、原典確認という複数の読み方が、同じ著者に対して行われている。

典拠人物の候補

人物調査では、著書の著者、説の帰属先、氏・君・博士などの呼称を手掛かりに、551人の正規化候補を得た。候補表上の総出現回数は1,296回で、249人は一度だけ現れ、160人は複数の篇にまたがっていた。

プリニウスは表記上51回、9篇に現れる。ほかに、グベルナチスは9篇、マレー、ロメーンズ、馬琴などは7篇で確認された。西洋古典、中国古典、旅行記、博物学、民俗学、日本文学、熊楠と同時代の人物が同じ文章内に置かれている。

この人物表には、著者、歴史上の人物、宗教・神話上の人物、説話の登場人物が混在する。「キリスト」のように年代表現に含まれる可能性がある語や、同姓、短い片仮名名もあるため、現段階では典拠人物の確定名簿として扱えない。各候補の証拠文を確認し、役割ごとに分ける作業が残っている。

今後の調査

今回の一覧から、プリニウスが『十二支考』の広い範囲で繰り返し使われ、熊楠がその記述を比較や検証の対象にしていたことが確認できた。人物候補の分布からは、複数の篇を横断する典拠と、一つの話題にだけ使われる人物を分けて追える見通しも得られた。

今後は人物候補を人手で監査し、著者、情報提供者、歴史・説話上の人物などに分類する。そのうえで、熊楠が誰の記述を採用し、誰を批判し、どの説を保留したかを、プリニウス以外の人物にも広げてまとめる予定である。

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