国立科学博物館の公開目録メタデータから、南方熊楠菌類図譜に残る未確定知の保存形式を検討する予備調査。
仮の名で自然を留める
── 菌類図譜の暫定命名と未確定知(公開49点による予備調査)
本稿の性格について(先に明記する) 本稿は、設計書『03_仮の名で自然を留める』のうち AI完結ラインで現時点までに正当に確定できた範囲だけ を記事化した予備調査版である。設計が本来求める中核作業——AIが高精細IIIF画像を直接見て、熊楠自筆の命名記述(学名・仮称・疑問符・訂正跡)を判読・分類する——は、本稿執筆環境から画像そのものに到達できなかったため未実行である(詳細は第8節)。 したがって本稿の分析対象は、国立科学博物館 電子展示「南方熊楠 菌類図譜」の公開目録メタデータ(資料名・種別・年代・所蔵・章立て)に限られる。各資料の個別ページに併載された翻刻文・館の解説文は、設計書の線引き(AI入力NG資料)に従い、本編の分析材料として一切使用していない。データと解釈は節を分けて示し、判読・分類を要する箇所は空欄または「未判読」として残した。
1. 菌類図譜と命名の問題
南方熊楠は、1901年の帰国以降、みずから採集したきのこをもとに数千点におよぶ「南方熊楠菌類彩色図譜」を作成した。この図譜群は、正式な学名を与えられた清書とは限らない。同じ菌に何年もかけて描き足された葉、名の定まらないまま番号だけが振られた葉、複数の菌が一枚に同居する葉が混在する。国立科学博物館の電子展示が図譜を「整然」と「混沌」という二つの章に分けて提示していること自体が、この資料群が単一の完成形をもたないことを示している。
本稿が問うのは、命名の正誤ではない。熊楠が「まだ名の確定していない状態」をどのような形式で記録に留め、後の比較・再検討に開いておいたか——その技法である。図譜を「完成した知識」ではなく「変化する知識の履歴」として読むとき、名前が付いていないことや、後から書き足されていることは、欠落ではなく方法の痕跡になりうる。
2. 対象とした公開49点
対象は、国立科学博物館 電子展示「南方熊楠 菌類図譜」に掲載された、熊楠自筆・同館所蔵の菌類図譜49点である。電子展示の第四章〈整然〉26点と第五章〈混沌〉23点がこれにあたる(第一・二・六章は写真・ノート・現代の菌類写真等のため対象外)。
- 出典一覧:https://dex.kahaku.go.jp/kumagusu/archives
- 各資料はIIIFマニフェスト(
https://iiif.kahaku.go.jp/manifests/[UUID].json)として公開されている - 画像ライセンス:CC BY-NC 4.0(非営利・出典表示が条件)
内訳(すべて公開メタデータから機械的に算出。検証可能):
| 区分 | 点数 |
|---|---|
| 章:整然 | 26 |
| 章:混沌 | 23 |
| 集:第一集 | 34 |
| 集:第二集 | 15 |
| 整然×第一集 | 20 |
| 整然×第二集 | 6 |
| 混沌×第一集 | 14 |
| 混沌×第二集 | 9 |
| 合計 | 49 |
49点の全リスト(資料ID・菌番号・集・章・年代)は付表(公開菌類図譜49点一覧.csv)に別掲する。
3. 名称状態の分類方法(枠組みのみ。適用結果は第5節で未判読)
設計書に従い、各図譜の命名状態を次の8区分でラベル付けする予定である。
- 正式学名あり
- 属名のみ
- 学名に疑問符
- 日本語説明名のみ
- 熊楠独自の仮称
- 番号・記号のみ
- 名称なし
- 後筆訂正あり
各図譜について記録する項目:資料番号/表題/採集日/採集地/記載名称(原表記)/画像URL/マニフェストURL/命名状態/名称以外の識別情報(色・形・大きさ・発生場所・基質・他標本との類似・図中配置)/訂正の有無と位置。
この分類は、図中の熊楠自筆記述を読み取って初めて確定する。 本稿執筆時点では画像を判読できていないため、8区分への各点の割り当ては行っていない(理由は第8節)。以下の集計は、命名状態ではなく、名称に触れずとも公開メタデータだけで確定できる構造的特徴に限る。
4. 集計結果(メタデータのみで確定できる部分)
命名の中身を読まずとも、目録レベルで「知識が動いた痕跡」を示す指標が三つ取れる。いずれも一覧ページの記載から直接カウントした事実であり、解釈は第7節に分離する。
(a) 同一菌番号が複数の葉にまたがるもの 一つの菌番号に対し、図葉が複数存在する(=同じ対象を繰り返し描いた)ケース。
| 菌番号 | 葉数 |
|---|---|
| F.1092 | 6 |
| F.758 | 4 |
| F.772 | 4 |
| F.1529 | 3 |
| F.1581 | 3 |
| F.3443 | 3 |
| F.33 / F.618 / F.32 / F.4208 / F.2672 / F.812 | 各2 |
(b) 一枚の葉に複数の菌番号が同居するもの(7葉) F.410+F.411/F.798+F.799/F.33+F.34/F.1092+F.1092/F.237+F.238/F.3443+F.3443/そして最大は F.3603・F.3605・F.3606・F.3607・F.3608・F.3609 の6番号が一葉に同居。
(c) 一枚の葉に複数の「年」が記入されているもの(後年の追記が確実な葉)
| 菌番号 | 記載年 | 年差 |
|---|---|---|
| F.33/F.34 | 1902 と 1935 | 33年 |
| F.2 | 1900 と 1930 | 30年 |
| F.772 | 1903 と 1917 | 14年 |
(このほか、同一年内の複数日付をもつ葉——F.758・F.812など——も存在するが、上表は「異なる年」が確認できる葉に限った。)
(d) 年代不詳:4点(F.1092 の2葉、F.3443 の2葉)。
5. 仮称・番号・疑問符の事例 ── 未判読
本節は、設計書が本稿の中核と位置づける部分だが、画像判読が未実行のため空欄とする。 仮称・番号・疑問符・訂正跡の実例提示は、IIIF画像を直接読み取ったうえで行う必要がある。推測で例を創作しない(設計書「推測で補わない」原則)。判読の実行手順は第8節に、その際の分類枠組みは第3節に示した。
6. 名前がない対象をどう識別したか ── 未判読
同上。名称が確定していない図譜において、熊楠が何を手がかりに対象を再識別可能にしていたか(色・形・大きさ・発生場所・基質・他標本との類似・図中配置)は、図の内容を見て初めて記述できる。現時点では未着手であり、空欄として残す。
7. 未確定な知識を保存する技法(予備的知見)
第5・6節が未判読である以上、命名技法そのものの結論は保留する。ただし第4節のメタデータだけでも、「熊楠が知識を一度で完結させなかった」ことを示す痕跡は予備的に見えてくる。以下はあくまでメタデータからの示唆であり、断定ではない。
第一に、同一の菌番号が何年もかけて複数の葉に描き継がれている(F.1092は6葉、F.758とF.772は各4葉)。これは、いったん振った番号を「暫定的な受け皿」として保持し、後の観察を同じ番号のもとに追記していく運用があったことを示唆する。番号が、確定した同定の結論ではなく、継続中の照合の宛先として機能していた可能性がある。
第二に、一枚の葉に14年・30年・33年という長い間隔をおいた年が併記されている(F.772、F.2、F.33/34)。同じ紙面上で古い観察と新しい観察が同居しているということは、図譜が「描いて終わり」ではなく、後から立ち戻って書き足す対象であったことを意味する。ただし、この追記が訂正なのか、補足なのか、別個体の記録なのかは、図を見なければ判別できない。ここでは可能性を複数併記するに留める。
第三に、複数の菌番号が一葉に同居する構成(最大6番号)や年代不詳の葉の併存は、図譜が整理の途上にある状態をそのまま保存していることをうかがわせる。電子展示が章を「整然/混沌」に二分していることも、この資料群が単一の完成形に収束していないという同じ事実を、館の側から言い換えたものと読める。
要するに——分からないものを捨てず、仮の形式(番号・複数葉・追記欄)に留めて後から比較可能にしておく。その運用の輪郭は、命名の中身を読む前の目録段階でも、すでにうっすらと現れている。これを名称記述のレベルで裏づけることが、次段階(第8節)の課題である。
8. 公開資料だけでは判断できない点・本稿の限界
(1) 画像判読が未実行である(本稿最大の限界)
設計が求める「AIが画像を見て命名記述を読む」中核作業を、本稿執筆環境では実行できなかった。IIIF画像API(.ptifの画像)に環境のネットワーク制約で到達できず、崩し字・ラテン語綴りをAIの視覚で読む経路が確保できなかったためである。第3・5・6節が空欄なのはこのためであり、本稿の命名分類は「未着手」であって「困難の結果ゼロ件」ではない。
(2) 翻刻・解説を本編に使っていない(意図的な線引き) 各資料の個別ページには熊楠自筆の翻刻と館の解説文が併載されているが、これらは設計書がAI入力NGと定めた資料である。したがって本編の分析には一切用いていない。これらの照合は、人間が原典で行う「おまけ工程」に属する。
(3) 命名意図の断定は避けた 第7節の追記・複数葉・番号同居の解釈は、いずれも「訂正/補足/別個体/整理番号」等の複数可能性を残した。図を読まずに意図を一つに決めることはしない。
(4) 49点は全体のごく一部 熊楠の菌類図譜は数千点規模とされ、本稿の49点は電子展示という公開範囲に限定した予備調査である。全体傾向の一般化はできない。
(5) ライセンス 対象画像はCC BY-NC 4.0(非営利・出典表示)。成果を有償頒布する場面が生じた場合は要再確認。
(6) 分類・解釈の担当 本稿のメタデータ集計・解釈はAIが実施した。翻刻の答え合わせ・現物背景の付記は人間の担当(おまけ工程)に残されている。
次段階の実行手順(設計書の手順に対応)
- 画像到達経路の確保:IIIF画像をAIの視覚に載せられる環境で、49点のマニフェストから画像を取得する。← 本稿で唯一詰まった箇所。
- 名称部分の転記(画像から):図中の熊楠自筆記述を原表記のまま抜く。判読困難は「不明」。推測補完しない。
- 命名状態の分類:第3節の8区分でラベル付け。
- 名称以外の識別情報の収集:第6節の項目を各点について記録。
- 仮称の役割の検討:一時保管名/照合記号/種の候補名/整理番号/再調査メモ のどれに近いか、断定できなければ複数併記。
- 訂正・上書きの分析:第4節(c)で目星をつけた複数年記載の葉(F.2・F.772・F.33/34)を筆頭に、疑問符・取消線・筆記具の違いを確認。
- 代表3〜5点の精読:性格の異なる図譜を深掘り。第4節で浮かんだ候補——F.1092(6葉・年代不詳を含む)、F.772(14年差の追記)、F.3603群(6番号同居)——は精読の有力候補。
- 人間による裏取り(おまけ):AIが画像から起こした判読を、人間が顕彰館DB・館解説の翻刻と数点だけ突き合わせ、正誤の別のみを記事に記す(翻刻テキストはAIに再投入しない)。
出典
- 国立科学博物館 電子展示「南方熊楠 菌類図譜 〜その整然と混沌〜」掲載資料一覧 https://dex.kahaku.go.jp/kumagusu/archives (2026-07-13 取得)
- 各資料 IIIFマニフェスト:
https://iiif.kahaku.go.jp/manifests/[UUID].json - 画像ライセンス:CC BY-NC 4.0(国立科学博物館)
この記事の作成にはAIによる補助を利用しています。詳細はAI利用方針をご覧ください。